引きこもりになる-母との境界線
自由への挑戦 ‐ とことん正直に生きてみた
<著者:ちー>
6.引きこもりになる-母との境界線
┃引きこもりの自愛
「何日外に出てないの?」
子供に心配された
引きこもりだと思われていた
外に出る理由もない
一日が長い
そうは思ってもウジウジしたり、自分に言い訳したり、メソメソしたり、自分に活を入れたり、なんだかんだ忙しい
相変わらず、娘は皿を洗い、息子は弁当を作る
こんな情けないかーちゃんのために、手伝ってくれるのか
ジワジワあったかい気持ちがした
けれども、元のように全ての家事を背負う気にはなれなかった
もう主婦業で自分を満足させることはできないと分かっていた
今後の生活のために、上手くいっている家事分担のシステムを壊したくなかった
もっと頑張りなさい
強くなりなさい
どこからか私を追い詰めるような言葉が追いかけてくる
すぐ働けないと分かっていても求人情報を見ていた
仕事を辞めたことは、自分を守る潔い決断だったと思いたかった
しかし、敗北感と無力感だけはずっと消えなくて、気持ちは晴れない
相変わらずやりたいことも見つからない
スーパーのお菓子売り場で、一番値段の高いポッキーを買った
自分に優しくしたかった
一箱に3袋入りを子供と分けて食べた
次の日も高いポッキーを買った
こんどは子供に内緒で、一人で全部食べた
誰も気が付かない
誰に遠慮して、今までお菓子を一人で食べなかったんだろう
子供だってお遣いでおやつぐらい好きに食べている
次の日は、高いプリンを自分の分だけ買った
次の日もその次の日も、一人で高いプリンを食べた
なんだか誰かに優しくしたくなって、子供のお弁当を作った
ありがとうと言われた
毎日お弁当を作っていたころは、お礼を言われたことはなかった
頑張らないほうが感謝されるってどういうこと?
不思議だ
┃今更ながら反抗期
私は父に線香をあげるのをやめた
自分に正直に生きると決めた時に母に言った
「私はずっと父が嫌いだった」
「死んでも許せていない」
「だから線香もあげないし、墓参りもしない」
「ほかの家族がしたいならすればいい」
親不孝者と言われることも覚悟していた
「強くないとできないことだね」
母はそういった言った
わがままを通すことは弱い人がすることじゃなかったのか
昼前に母の家行くと今川焼を出された
そして昼ごはんの時間になり、母が白米をよそった
「私はお腹がすいてないからおかずだけでいい」と言った
せっかく炊いたんだからと御飯をよそう
こういう時、無理してでも食べないといけないんだろうか
「だったら昼ご飯前に今川焼ださないでよ、そしたら白米食べられたのに」
と心の中で思う
いつもなら無理して食べるところだが
「無理やり食べさせないで」
今までは口にしないことを言っていた
これじゃ、まるで高校生の反抗期だよ
何だか可笑しくなって、一人で笑った
転職騒動で振り回した娘に、母はいった
「世間は甘くなかった?」と
巷でよく聞くこんなセリフが、なんでこんなに悲しいのか自分ではよく分からなかった
世間が甘くないなんて、子供のころからずっと知っていた
そのことを母は気づいていないのだろうか
┃親切テロリスト
母は私が自立するのをあきらめたと思ったのか、夫との仲を取り持とうとした
私はもうそんな夢は見ていない
そして望んでもいなかった
母に悪気はない
親切心からだろう
だけど、こちらが望んでない親切を押し付けてくるのは迷惑だった
母を親切テロリストだと思った
親切にしてもらって文句を言うなんて、私はひどい奴なんだろうか
喜んで感謝しなくてはいけないのだろうか
母の家に行くことが億劫になっていった
気を抜くと、例の言葉が呪いのように頭にわいてきた
もっと頑張りなさい
強くなりなさい
自分で自分を追い詰めるような言葉は聞きたくない
この苦しさから逃れたい
このままではノイローゼになるような気がした
もういい加減うんざりして、なんだか無性に腹が立ってきた
大体、このセリフで私を追い詰めるのは、誰の価値観なの?!
愕然とした
母だった
┃真面目の害
私は母が大好きだった
父が毒親だったので、子供のころから、間違っているのは父で正しいのは母と思い込んでいた
けれども、母は本当に正しかったのだろうか
真面目に頑張ることや強くなることは悪いことではない
しかし、極端に真面目で頑張り屋であることのデメリットが次々と浮かんでくる
実はそのことで周囲に迷惑をかけていないだろうか
頑張り屋は他人に協力させない
頑張れない人に共感できない
周りの人を威圧してしまう
道徳的な考えが無意識に人を裁いてしまう
勝手に責任を引き受けて消耗して周りに腹を立てる
母の長所だと思っていたところが短所に変わった
母のことを一人の人間として冷静にみられるようになった
私のなかで母との境界線ができ始めた
すると、急にいろんな回路がつながりだした
今まで見えなかった部分が明るくなり、私の抱えていた問題が、予想外の解決に向かっていった
<著者:ちー>